説難

金持ちと喧嘩しよう

 世界人口のたった1%の富裕層が世界の総資産の半分を所有しているらしい。

 ヨーロッパでもアメリカでも、難民受け入れ問題で大喧嘩をしているが、そもそも、庶民と貧民が、僅かな富を奪い合っているから争いが絶えないのだ。

 私は感じている。彼らが貧困という理由だけで過激になっているわけでないことを。どちらかというとむしろ問題なのは、「不平等」なのではないかと。

 不平等は些末な問題も深刻化させる。夫婦関係がうまくいかなかったり、ソリの合わない上司に仕えているくらいでも、殺意に近い苛立ちを生み出してしまう。

 逆に言うと、民族闘争や領有権争いですら、貧富の格差が多少なりとも解消されれば、そこまでしつこく揉めることはないだろうと考える事象が多々有る。

 何より悲しいのは、みんな不平等が気に入らなくて争っているのに、戦場で血を流しているのは、貧民か平民だ。

 知っているだろうか、

 アメリカの財閥、モルガン商会は、第一次大戦後のパリ講和会談で、大戦中にフランスに貸し付けた債権を回収するために、ウィルソン大統領に圧力をかけ、悪名高きドイツへの法外な賠償金を要求させた。

 1600万人が犠牲になった悪夢の直後、彼らの関心は、「で、俺の金はどうなった?」だった。

 そして、その賠償金が、次の8000万人の犠牲を生む引き金となる。

 私たち庶民はもう少し利口になった方が良いのではないかとつくづく痛感する。

 

《富の再配分》

 自由と引き換えに不平等を生む資本主義の欠陥は、100年も前からわかっている。だから、富の再分配という調整弁を持つ「修正資本主義」が導入され、崩壊する社会主義を尻目に生き残って来たのである。

 しかし多くの経済学者が指摘しているように、今その調整弁が機能不全となりつつある。

 ネットビジネスで財を成したGAFAと呼ばれるマンモス企業がその象徴である。

 富を再分配するには二つの方法がある。

 一つは、富裕層が自ら行うもので、雇用や設備投資を行い、自分を富ませてくれた業界に直接富を分配するパターン、いわゆるトリクルダウン。

 今一つは、課税により税金として富を吸い上げ社会保障の形で貧者に再分配する方式。

 GAFAはネット技術を駆使し、人件費や設備投資を極少化することにより利益を上げた。同じくネット技術を駆使し業務の拠点を容易に移転可能にし、課税上都合のいい場所に移すことができる。したがって、トリクルダウンも課税による再配分も困難と考えられている。

 

 この内、トリクルダウンの問題点についての考察は後日「ネット長者たちの黄昏」と題して投稿したいと考えている。

 今回は課税による富の再分配についてその解決策を検討する。

 

《課税による再分配》

 ちょっと前に流行ったトマ・ピケティの「21世紀の資本」は、資本主義の生み出す、常軌を逸した格差の拡大と極端な富裕層への富の集中を避ける方法は、全世界が協調して例外無き富裕層に対する課税制度を構築する事だと言う。

 ここで言う、全世界に例外無き課税制度という概念が非常に重要で、各国で税率が違うと、富裕層は、税率の低い、いわゆるタックスヘイブンに、利益と富を疎開させてしまう事を問題視している。

 しかし、全世界が協調して例外なき課税制度を構築するという構想は、世界中の通貨が統一されて、輸出入の関税を完全撤廃することになるより難しく、正直言って非現実的だ。実際、EUは、通貨を統一して関税を撤廃しているが、法人税率はバラバラだ。

 富裕層の納税額は、低い税率でも、庶民の数千、数万人分を収めてくれる。どの国も不平等は重々承知の上でも、彼らに対する優遇措置を取らざるを得ないのが現実だ。

 

 しかし、ピケティの着眼は正しい。

 ただ法人税という「直接税」を主軸においているのではままならない。

 着目すべきは「間接税」である。

 

 会社の利益に対して課税される法人税は、いわゆる直接税と言われ、その法人の所在地や経済活動の拠点(国際課税のルール上_PE:Permanent establishmentと呼ばれる)が存在する国の課税制度が適用される。そこで、直接税を納めたくない法人はなるべく税率の低い国に、本社機能やPEを移転したり、そうであるかのように書類上の手続きを行い、租税を回避する。

 これに対し間接税は、消費税やガソリン税のように、売買やサービスの提供に対する代金の支払いが行われる時点で課税され、その商行為を行なった場所を領有する国家の課税制度が適用される(ネットの場合は、現在議論されているところであるが、本稿では購入者の所在地とする)。

 間接税は性格上、代金を支払う者(一般に消費者)がこれを負担し、受け取った事業者がこれを国に納めるものであるため、一見、弱者に厳しく強者を助ける税と考える人が居り、消費税などは導入の時から嫌われ続けているが、課税と徴収という実際の運用面においてこれほと都合の良い制度はない。

 直接税に代わって富の再配分を担うという重要な役割を忘れない限り、公益は万民に帰する。

 

《打ち方始め!》

 今ネットビジネス・オンラインサービスに一律10%の間接税を課したとする。その代わり同サービスを提供する企業の法人税を現行の中小企業者に対する税率のさらに半分の10%とする。

 今や必需品となったネットサービスが10%も値上がったりするとおそらく国民の反感は甚大であろうが、ここへ商機を見いだす企業が現れる。法人税の低税率を背景に、この間接税を飲み込み、サービス価格を据え置いて提供する企業である。

 国家もまたこのような一定規模以下の業者に対してはその間接税を軽減税率とする措置をとる。あからさまに「国外に拠点を置く企業」を狙い撃ちで、間接税率を上げても良い。

 さあこれで、GAFAがどこにPEを置こうが、国内で商売する限り、中小や新規参入組とハンデ戦をせざるを得なくなった。わかってきただろうか?私がやりたいのは、市場を人質にした「独占」の放棄要求だ。

 つまり彼らは苦々しい二者択一を迫られることになる。すなわちその市場から撤退するか、無駄に法外な役員報酬を削ってサービス価格を引き下げるかである。

 私が経営者なら、使い切ることもできなくなった資産をマネーゲームで弄ぶならば、市場に還元し、新規参入者と切磋琢磨する。それこそが自分を儲けさせてくれた産業への恩返しであろう。

 この先は希望的観測となるが、この案の優れている点は、しれっと、とかく野党から大企業優遇と非難の的となる思い切った法人税減税が行える事だ。

 GDPが3位になったと言え、やはり日本の市場は魅力だろう。どっちにしても営業活動に課税されるのなら、多くのIT関連企業は日本に活動拠点を戻すだろう。

 彼らとていくらネットの技術を駆使しているとは言え、ケイマン諸島パナマに本社機能を置いていることが、実際の経済活動においては不便であることには間違いはないのである。

 本社機能等が国内に移ってくれば、雇用や都市の発展、日本人のグローバル化なども期待できる。 

 

《公正で居心地の良い世界》

 「自由競争に対する不当な介入?

 税制と言うものは累進課税を含め所詮は不当な自由競争への介入である。これらはより多くの市場関係者の公益を図るために行われる「政策」である。

 韓非子は、『法』を定めるにおいて、信条や情による服従を求めない。有術者(法律を上手に扱う者)の『法』とは、その法に従った場合のメリット・デメリットと従わなかった場合のメリット・デメリットが明白であり、全ての者の選択肢が「従う」であることが期待されるものである(姦劫弑臣篇(かんきょうしいしん)ほか)

 現在各国家が行っている輸出入における関税制度は、商業者にとっては自由な商売を侵害する介入以外の何物でもない。しかしながら多くの大企業はこの制度を受忍している。気に入らないからといって密輸入をしようとはしない。

 別に彼らは国家を恐れているのではない。密輸にかかるコストが関税を上回るからだ。だから、ほとんどの商売敵が同じ選択をすることが期待されるからだ。

 彼らにとって怖いのは商売敵に出し抜かれる事だ。それも悔しいとか腹立たしいのではなく、負ければ投入コストが無駄になるからだ。

 

 間接税とした場合、これを納めないと言う選択をGAFAはするだろうかと言う不安が生じるが、おそらくそれはできないであろう。

 直接税の納税地を有利な課税制度の国に移転するのは信条的には褒められた行為では無いが、法律上は適法である。それに、直接税はいったん懐に入ったいわば「身銭」だ。身銭を切るには、今の税金の使われ方や役人に対する不満も左右されがちである。

 これに対し、間接税は支払者から「預かった税金」。これを納めない事は「横領」であり、どの国においても犯罪である。

 理にかなっていても、逃げ道の有る法、情に頼る法は、従う者も従わない者も両方不幸にする。多少不条理であっても、従わざるを得ない法の方が 、当事者たちにとってはありがたいのである。

 

 モルガンだって金の亡者と言われるより、人間的に評価されたかったのではないか?ただ資本家の矜持が、不公正な競争が可能な世界ならば、その選択をさせてしまうのではないか。資本家の性が、ライバルより真面目に税金を納めたせいで、税引後利益率が下がるのがどうしても許してくれないのではないか。

 彼らも実は分かっている。娘の帰宅を心配しなくて良い世の中、息子が搭乗している飛行機の離着陸時間をいちいち気に病まずにすむ毎日。無秩序に拡大する資本主義をこのまま放置していればその未来は無い事を。だから誰よりも誰もが従わざるを得ない税金制度を待ち望んでいるのではないか。

 そう言えば、世界的ベストセラーとなったトマ・ピケティーの著書を最も購読したのは富裕層だったと聞く。

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エドガー・ドガ「アプサント」

 場末のカフェで娼婦とその雇い主が、「アブサント」という安いが悪酔いを引き起こす酒を飲んでいる。

 女性のモデルはれっきとした女優さんなのだが、その疲れきったという表情は、下層階級の人間がさらに最下層の人間から搾取する、どうしようもなくくだらないこの世の中を、見事に表現している。