説難

余桃を喰らわす

北朝鮮との国交樹立

 北朝鮮というと、ちんまいくせに偏屈で、面倒な国というイメージが強いが、全世界の80%の国と国交が有ることはご存じだろうか?

 また、日本では名前を出すだけで嫌がられる金正恩だが、自由主義社会では考えられない残酷な粛清をする一方で、正当な方法で外貨を獲得し、食料の大増産を実現し、核武装も成し遂げており、洗脳を受けていなくても十分に自国民の尊敬に値する業績を上げている。

 まだまだ貧困層を抱えているのも現実だが、核兵器が臨界テスト(実際に爆破させずにその威力を図るテスト)のできるレベルに達すれば、もうそんなに開発コストは要らない。余った資源を貧困層に還元すれば、とりあえず戦時下のような窮々とした惨状は回避できよう。

 実は、この状況は大戦前夜のアドルフ・ヒトラーに酷似している。 

 しかし、ヒトラーは大戦を仕掛けるまでにドイツを復興させたが、これは、元のドイツという国の潜在能力の高さも起因している。北朝鮮が経済的な離陸期(テイクオフ)に入るには、後一手が必要だ。

 それは強大な経済力を持つ隣国との国交である。

 そのパートナーが誰になるかによって、金正恩ヒトラーとなるか、渋沢栄一(新一万円の人)になるかが違ってくる。

 中国は?中国はダメだ。自分の支配下に置きたいので、援助はするが発展はさせない。注文も多い。それに、中国がパートナーなら、行先はヒトラーだ。

 それに比べて、日本は、かつての中国にそうしてあげたように、自分を追い抜くまで発展しても、かつての借金を返せとも言わない。日本が求める見返りは「平和」だけだ。そして、今このタイミングで国交を樹立すれば、かなりの確率で、日本は彼らの核弾頭の標的から除かれるし、この道の方が渋沢栄一に近い。

 

国交樹立に当たり問題とされる事項と反駁   

○=問題点 ●=反駁

○ 独裁国家基本的人権を無視している。

  •  世界の国の内、民主的で基本的人権を保持している国の方が少数派だ。 

○ 核弾頭を持っている。

  •  日本に隣接する五か国のうち韓国を除く四か国が核保有国だ。今更・・・

世界で唯一の被爆国でありながら、アメリカに気兼ねして、核軍縮条約に反対した国が何を言う?

○ 拉致問題はどうなる?

  •  これが一番聞く人によっては叩かれそうだが、日本を含む多くの国々の経済封鎖により、北朝鮮は長期に渡り食糧難に陥り、数十万か数百万人が餓死したといわれている。

 金一族の政権が悪いのだ。栄養失調で死んだ子供の躯を抱いて泣く母親を前にして同じことが言えるだろうか?

 かつて、太平洋戦争末期、アメリカ軍は、「国民の戦意を削ぐ」という名目で、民間人の密集する市街地を絨毯爆撃した。そして、数十万人が死んだ。

 しかし、政権を掌握していた軍部は、あの原爆が落とされた後でも、天皇からの勅命が下るまで、戦争継続を言い張った。

 私の子供が拉致されていたら同じことが言えるかどうか?いつも問いかけるが、私の子供が餓死するさまも想像することができるので、やはり断言するだろう。

 「相手の国民を傷みつけているだけで、政権に全く効果が無いなら、そんな戦略止めてくれ。」と。

 

○ アメリ

 アメリカは黙ってないぞ、アメリカを敵に回すのか?

  •  正直、拉致問題より、実はこれが一番の障害である。

 前半で示したとおり、北朝鮮は、経済的テイクオフのために、強大な経済力と結びつきたいと考えている。端的に言ってそれはアメリカか日本である。

 しかし、日本には全くアプローチして来ない。なぜなら、日本がアメリカを差し置いて国交を結ぶとは考えられないからである。

 そして多くの日本人も、それが正しいと信じている。

 しかし、その戦略が本当に正しいか?

 

韓非子55篇[説難]余桃の罪 

 衛の国の美少年、弥子瑕(びしか)は、君主の寵愛を受けていた。
 ある時、夜中に母が病気になったという知らせを受けた弥子瑕は、君主の馬車を勝手に使った。その時代では、足切りの刑に相当する罪である。
 しかし君主は、

「母を思う心強く、なんと親孝行な者よ。」と称えた。
 またある時、君主と果樹園に遊んだときには、もぎ取って食べた桃がとても美味しかったので、自分の食べかけの桃を君主にも食べてもらおうと、これを手渡した。

「自分が全部食べたいはずなのに、分けてくれるとはなんと優しい者よ」と、またこれを褒めた。

 そんな弥子瑕も、年月を経ると容色は衰え、君主の寵愛も失われ、かつては賞賛の対象であった行いの数々も違った目で眺められるようになった。

 そしてついには、「この者は以前、私の馬車を勝手に乗り回し、自分の食いかけの桃を私に食べさせるという無礼をはたらいたことがあったけしからん者だ。」と罰せられてしまう。

 権力者というものは気まぐれで身勝手なものだ。

 

 いつの日か、「日本の首相は、我が国の大統領に、半裸のデブにくそ重たいカップを渡させ、窮屈な居酒屋のカウンターで夕食を採らせた。」と言われる日が来るかもしれない。

 確かに、アメリカは強大で、そうそうなことでは没落しないだろうが、いつも日本だけを弥子瑕にしておく理由もメリットもないわけで、同盟なんてただの紙屑だ。

 日本は、軍事力以外の方法で独自に自国の利益を保全する戦略(プランB)を常に持っていなければならない。

 

先んずれば制す   

 その昔、日本が国内の共産主義勢力を必死で抑えているとき、だしぬけにアメリカのニクソン大統領が訪中し、電撃的に国交を樹立、日本は再隣国との関係改善において、かなりの痛手を被った。

 トランプは、意外と日本が拉致問題固執してくれていることや、その問題が解決しないことを望んでいるのかもしれない。(申し訳ないが、残酷に計算すればそうなる。)

 安倍総理は近々、条件を付けずに金正恩総書記と面談するようだが、彼には、上記のような合理的(ある意味残酷)な計算はできない。しかし、そういうやつほど、戦争という、一番無駄で残酷な手段で問題を解決しようとする。

 まあ、行く前に誰かわかっている奴(計算ができる奴)が居て、随行してくれることを望む。

 

北朝鮮との国交樹立の条件(案)

 まあ外務省の方が具体的に考えてくれればいいが、一応私の考えるプランは以下のようなものだ。 

核兵器の事は目をつむるから、そっちの貧民に職を与えるための工場を作らせろ。

人工衛星から見ても、まっ黒にならないよう、インフラ整備をするから手伝わせろ。

◎そっちの得意なもの(なんか大型彫刻の技術はすごいらしい)は買うから、同じくらい日本の何か、そっちで必要としているものを買え。

 これで、北朝鮮のテイクオフのグリップを握る役目を担える。金正恩渋沢栄一してやろうじゃないか!それが日本の勝ち方だ。

 

 もし、アメリカに何か言われたら、「拉致問題をあきらめることにしたら、何の障害もなくなったから。」と答えればいい。どうせ向こうの方こそ、先んずるチャンスを虎視眈々と狙っているのだ。もともと関係悪化の原因が、アメリカや韓国に比べ明らかに深くない日本が、アメリカや韓国の国交樹立を待つ事自体がおかしいのである。

 さらにアメリカが「貴国との関係について考え直させてもらう。」などと言うのであれば、やってもらえばいい。利口な国だから、ほどなく、自分がやろうとしていた事を出し抜かれただけという「是非も無い」事について考えているという愚行に気付くだろう。 

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ジャック=ルイ・ダヴィッド「ベルナール峠からアルプスを越えるボナパルト

 威風堂々、ナポレオンと言えばこの絵であろうが、画家のダヴィットがスケッチの際、「じっと座っていてください。」というと、「誰も正確な絵など期待していない。伝えたいものが伝わればいいのだ。」と言ったそうな。

 このアルプス越えも含めて、先例に囚われない、彼の奇想天外な発想は筆致に尽きない。また、一方でそれまでの庶民間の慣例や慣わし・掟を編簿して、ナポレオン法典という今でいう民法書を制定している。

 しかしながら、そんな彼も、弥子瑕の如く、勝率が下がり始めると、それまで善行と称えられていたことが、クソミソに非難され、追い出され、島流しという経験を二度味わい、最後は孤島でひっそり死を迎える。

 それでも私は思う。因習を拭えず、シフトし続けるパラダイムについていけない者は、先ず、寵愛の対象にすらなれない。