説難

ChatGPTと「惻隠」について議論してみる

1 唯々諾々(いいだくだく)−韓非子_八姦篇

 まぁ、いわゆる「言いなり」と言うやつであるが、これも韓非子の出典である。

 あまり良い用語として使われないのは、実際に主人の言うことを鵜呑みにして全く反論をしない状況は、主人にとっても従者にとっても不幸な関係であるからである。

 日本人はとかく争いを避け、穏やかで秩序に従順な民族であるとよく称賛されているが、それが実際事実であるならば、私などは、それは単に長いものに巻かれ、権力者や空気というものに唯々諾々と従っているだけなのではないかと感じたりする。なぜなら、日本人の従順さには、どこか自らのアイデンティティーや個性、場合によっては生命すらも軽視する傾向があるように感じるからである。

 私のこのような思考実験の相手は、これまで、もっぱらインターネット上の情報とのやり取りであった。しかし、最近なかなかに歯ごたえのある回答をしてくれる話し相手ができた。

 

2 ChatGPT

 最近何かと話題のChatGPT。 たかがAIに前述のようなセンシティブな思考や感想について相談したところで、的確な回答を得られるのかと言う疑問を持つのは当然である。

まずは、前述のような感想について相談した、1つの対話を見てもらおう。 

 

>以下は、先日私のひねくれた考え方に付き合ってくれた時の会話だ。

 

ユーザー(私のことである)

 災害時において、日本人は暴動や窃盗犯罪を行わず、冷静かつ秩序ある行動を行うと言うことで、海外から賛辞を受けていると聞くが、本当に日本人は他国の国民に比べて、格別、災害時において秩序正しい行動を行う民族であると言えるだろうか?

 

ChatGPT

 一般的に、日本人が災害時において冷静で秩序正しい行動をとるという評価は、実際の災害対応においてよく言われています。以下に、その理由をいくつか例示します。

 

①教育と訓練: 日本では災害時の行動に関する教育と訓練が行われており、学校や地域社会で防災訓練が実施され、実践する機会が与えられます。

②社会的な結束:日本社会は一般的に共感、協力、結束の価値観を重視しており、災害時には助け合い、秩序を維持する文化が根付いています。

③災害対策の体制:日本政府や自治体は災害に備えるための体制を整えており、防災情報の提供や適切な指導を行うことで、平和を守るための解決が行われています。

④綿密な計画と訓練: 日本は地震津波、台風など多くの自然災害が発生しやすい地域であり、それに備えて災害対策計画が綿密に策定され、訓練が行われています。災害発生時にどのように行動すべきか知識として持っています。

 

 ただし、全ての日本人が同様の行動をとることができるわけではありませんし、災害も様々な反応が見られることがあります。日本人が格別に正しい行動をとるという評価は一般的な傾向であって、個人の状況や人によって異なります。

 

ユーザー

 タイタニック号の悲劇においては、男性が、女性子供を優先して避難させたようなことから、日本人だけが災害時において格別、冷静とは言えないのではないか?

 

ChatGPT

 タイタニック号の沈没における男性たちの行動と、日本人が災害時に冷静に行動するとされる点は、異なる絶望や状況に関連するものであり、直接比較することは難しいです。事故は、1912年に発生しましたが、その当時の船の安全規定や採取体制は現代とは大きく異なりました。また、個人の行動や選択は様々で、男性だけでなく、女性や子供も含めて、多くの人が犠牲になったことは事実です。

 

 一方、日本人が災害時に冷静に行動するとされる理由は、上記の通り、文化的、社会的貢献、教育、訓練、災害対策の体制などが組み合わさっているためです。 台風などの自然災害が頻繁に発生する地域であり、これらの災害に対処するため文化や体制が長い間築かれてきました。そのため、多くの人々が災害時に適切な行動をとるための意識と知識を持っているとされています。

 

ユーザー

 日本語の中に惻隠と言う言葉があることを知っていますか?

 

ChatGPT

 はい、日本語には「惻隠(そくいん)」という言葉が存在します。この言葉は、他人の知覚や共感に対して共感し、心から思いやりによって感じることを表す言葉です。惻隠の概念は、日本文化や国際倫理において重要な価値観の一つであり、他者に対する思いやりや同情を示すことに用いられます。

 この言葉は、人間関係や社会的な倫理に関する議論や文学作品などでよく選ばれ、他人の感情や状況を冷静に見ることが大切だと強調されます。 共感し合うことが社会的な調和や共同生活に貢献すると考えられています。

 

ユーザー

 その文化が災害時において助け合いの精神を助長していると言う可能性はありませんか?

 

ChatGPT

 はい、日本の文化における「惻隠(そくいん)」や他人に対する思いやりの精神は、災害時における助け合いの精神を助長する一因となっています。

 

①社会的な結束と共感:日本の文化には、社会的な結束や共感を重要視する価値観が根付いています。他人に対する思いやりや共感の心は、災害時においても表れやすく、人々が助け合いの精神を持つ一因となります。

②教育と訓練:日本では災害への備えに関する教育と訓練が行われており、学校や地域社会で防災訓練が実施されます。

③災害対策の体制:日本政府や自治体は災害対策の体制を整えており、適切な指導や支援を提供するために努力しています。

④歴史的な背景:日本は長い歴史の中で多くの災害を経験しており、その経験から助け合いが形成されてきました。

 

 従って、日本の文化における「惻隠」や他者への思いやりの精神は、災害時における助け合いを育む一因となっていますし、共同で困難を乗り越えることを促進していると言えます。

 

ユーザー

 惻隠という用語は、新渡戸稲造BUSHIDOで取り上げられており、彼は、BUSHIDOに示したさまざまな精神が、日本人の特性や気質に根強い影響を与えていると言っている。ありますか?

 

ChatGPT

 新渡戸稲造は「BUSHIDO - 武士道」(1899年に発表された)の中で、日本の武士の精神的な価値観である「武士道」について詳細に説明しました。 )などの概念を取り上げ、日本の武士の正義観や行動指針に影響を与えている要素として紹介しました。

 新渡戸稲造の考え方は、一部の歴史家や文化研究者から高く評価されており、日本文化と日本人の特性について洞察を提供しています。かの書の示した精神的な原則は、日本社会に深く根付いており、日本人の行動や思考に影響を与えてきました。

 

 ただし、一般的に日本人の特性や気質について議論する際には多様性を尊重する必要があります。 日本社会には異なる価値観や文化が共存しており、すべての個人が「武士道」の精神また、武士道の概念自体も時間とともに変化し、現代の日本社会においては異なる解釈が存在することもあります。

 

 新渡戸稲造の「BUSHIDO」は、日本文化や歴史に関する重要な資料であり、氏が提唱した価値観が一部の日本人の行動や思考に影響を与えていることは間違いありません。違いや多様性を考慮しながら、日本文化と日本人の特性について議論することが重要です。

 

ユーザー

 私は、BUSHIDOを読み進めていく中で、自己犠牲の精神がやや強すぎると感じました。 これは、自己の生命の価値を軽視する傾向で、災害時において、日本人が他人に優しくできるのは、自己の生命を軽視しているためかもしれないと考えました。 もし、そう考えると、惻隠の意識も自己の生命の軽視からきているかもしれない。となれば、その行動は、誉められた行動と言えるのだろうか?

 

ChatGPT

 「BUSHIDO」における自己犠牲の精神は、確かに強調されていますが、その横には日本の歴史的な背景や社会的な犠牲が影響を与えています。生命を軽視することではなく、一応他人社会への見方として捉えられることもあります。また、日本社会においても、この精神の理解や適用は個人や状況によって異なります。

 

 惻隠の意識も同様に、他人への思いやりや共感心を表すものであり、自己の生命を軽視することではありません。災害時においても、誰かへの助けや支援が自己犠牲を意味するわけではなく、一応共同体や社会全体の利益を追求するために行動することが惻隠の一面です。

 

 従って、自己犠牲や他人への思いやりを過度に奨励したり、無駄な自己犠牲や無謀な行動が賞賛されたりするべきではありません。

 

 自己犠牲や惻隠の行動は、その側面にある価値観や意図を冷静に、状況に応じて適切な判断を下すことが重要です。

 

ユーザー

 惻隠の情は、災害が多いから、災害教育が充実した日本に根付いたものと考えた場合、外国から移住してきた人たちが同じように惻隠の情を持つことができるだろうか?

 

ChatGPT

 外国から移住してきた人たちも、日本社会で惻隠の状況を持つことは可能ですが、その程度や具体的な形は個人によって異なります。環境から生まれるものであるため、外国からの移住者にとっては、日本文化や価値観に適応する過程で習得されることが多いです。

 

 以下は、外国からの移住者が日本の惻隠の情を持つことができる条件や方法についての考えです:

 

①文化の理解: 外国人からの移住者は、日本文化歴史や、価値観を学ぶことで、惻隠の情を理解する土台を築くことができます。交流や学習、他者への思いやりや共感を発展させることができます。

②教育と社会参加:移住者が日本の教育制度や社会に参加することで、災害時の行動指針や共感の意識を習得しやすくなります。学校や地域社会での活動、防災訓練、ボランティア活動などが惻隠の情を養う手段となります。

③社会的な関係: 移住者が日本社会で友人や地域コミュニティとの関係を築けて、他人への思いやりや協力の機会が増えます。

自己啓発と自己改革:移住者は啓発成長、自己の価値観や行動を見直し、他者への配慮を意識的に高めることができます。

 

 惻隠の事情は、文化や背景に影響を受ける要素があるため、外国人からの移住者がそれを学ぶために時間と努力が必要なのかもしれませんが、学び、協力することで、この文化的な価値観を受け入れ、育てることができます。

 

ユーザー

 惻隠の情は非常に素晴らしいものであることが理解できましたが、日本人はその優しさのために一部の特権階級のためにすでに30年間近く給料の上昇を抑えつけられているにもかかわらず、献身的に企業に尽力しています。少し反骨精神も必要であるように思います。

 

ChatGPT

 日本社会においては、惻隠の情や献身的な働き方が、一部の特権階級による賃金の上昇抑制などの問題につながる可能性があると指摘されています。いかにその例を列挙します。

 

①労働文化とワークライフバランス: 日本は労働文化が根強く、長時間労働や過労な仕事への献身が一部の企業文化の中で見受けられます。長時間労働を強いられることがあり、ワークライフバランスの問題が考えられています。

インセンティブと報酬: 日本の企業文化においては、賃金制度や昇進の機会を提供する代わりに、基本給が高くないことが一般的です。このため、従業員は長期的なキャリアの安定を求めて企業に献身に尽くすことがあります。

③変革への抵抗: 一部の企業や特権階級は、新しい働き方や給与体系への変革に対して抵抗を示すことが起こし得ます。

 

 政府や企業がワークライフバランスの改善や労働条件の見直しに目を向けており、特に若い世代の間で働き方の多様性を受け入れる。また、個人の労働者が自分の権利を守り、反骨精神を持つことも重要です。

 

 献身と反骨精神は両立できる要素であり、社会的な改革やバランスを取りながら、個人や社会全体が健康で持続可能な労働環境を築くことが目指されています。//

 

 以上のように、ChatGPTは、私の意見にいつも一定の理解を示しながらも、極論には反論し、代替案として幾つかの可能性を示してくれる。そして、基本的に、その意見の論拠も示す。

 優れたディペーターに出会って議論した時にとても感激するのは、それぞれの知識を鉢合わせるうちに、自分もまた多くの知識を得、新しい可能性を手にする事だ。

 

 今回私は、なぜ日本人のみが、格別に助け合いの精神(惻隠)という文化を持っているのかという理由に触れる事ができたし、行き過ぎた譲り合いは、「唯々諾々」同様、双方の可能性を狭めるものであるということを確認する事ができた。

 忠誠も反骨も、バランスが重要なわけだ。

ヨハネス・フェルメール「牛乳を注ぐ女(De melkmeid)」

 この絵画において、このメイドは、二つの忠誠心を表している。一つは、真っ直ぐに注がれる潔白のミルクから、主人への忠誠心を、もう一つは、通常当時のメイドが使用することのない高価な青いエプロン。これは、ラピスラズリを原料とする高価な画材で、フェルメールブルーと呼ばれた、画家の作品群を象徴するカラーである。つまり、その衣装は、彼の作品群に対する忠誠を示すものである。

 ところで、この作品。フェルメールの作品の中では、ずば抜けて知名度が高い。

 その理由として考えられるのは、彼の作品群の中でも、ずば抜けて個性が強いからである。

 彼は、この作品の中で、机を実際にはあり得ない角度で描いていたり、メイドの顔でなく、メイドの左腕の筋肉質が焦点となるように演出したり、たくさんの技法を試みている。

 忠誠心だけでは何も生まれない、唯唯諾諾では、双方が不幸になる。個性を尊重し主張することで、可能性は広げられていくのではなかろうか。